【演劇】「劇団員も労働者」のニュースが単純に喜べない

「劇団員も労働者」のニュースが単純に喜べない

 

劇団員も労働者

「劇団員も労働者」 劇団の運営会社に「未払い賃金」の支払い命じる…東京高裁

劇団員が労働者であるか否か(労働者性)が争われた訴訟で、画期的な判決があった。

元劇団員の男性が、劇団の運営会社「エアースタジオ」に未払い賃金の支払いをもとめた訴訟の控訴審で、東京高裁は9月3日、男性が公演に出演したことなどについても労働者性をみとめて、会社に対して約186万円の支払いを命じる判決を下した。

●出演・稽古についても労働者性がみとめられた
判決などによると、原告の末廣大知さん(34歳)は2009年8月、社員ではなく、入団契約を結んで、2016年5月に退団するまで劇団員として活動した。この間、公演への出演や稽古のほか、いわゆる裏方業務(大道具・小道具・音響・照明など)に従事しながら、会社が運営するカフェ・バーでも働いた。

しかし、長時間労働にあったにもかかわらず、月6万円しか支払われなかったことから、末廣さんは退団後の2017年4月、未払い賃金の支払いを求めて、東京地裁に労働審判を申し立た。会社側が異議を唱えたことから、訴訟に移行していた。

(以下略)

画像及び文章の引用:弁護士ドットコムニュース「「劇団員も労働者」 劇団の運営会社に「未払い賃金」の支払い命じる…東京高裁」

 

ちょっと演劇界がざわざわしました。

簡単に言うと、劇団業務に就いていた劇団員に対して月給6万円しか出なかったのはおかしいので、劇団側はもっと支払いなさいって判決が出たというニュースです。

 

 

ニュースのタイトルだけ見れば、「不当な労働に対してちゃんと賃金が支払われたぜ!悪徳経営会社ざまあみろ!」って感じで、まるで松平健が自慢の刀で悪代官を成敗したかのようなポジティブな印象を持ちたくなるのですが、演劇業界の実情を考えると複雑な想いを馳せてしまうところ。

これで業界が是正されて環境が良くなるぜ!なんて単純な話ではない。

 

 

判決としては、もちろん自分も真っ当だと思います。

労働と拘束時間に対して対価が支払われるのは当たり前。

 

 

 

でも、もしこれが標準化されて定着した場合、たぶん終わるんですよね演劇業界。

 

 

 

演劇公演には必ず運営者がいます。

運営会社だったり、劇団の主宰だったり、プロデューサーであったり、その肩書はいろいろですが、

とりあえずその公演の金銭的な部分を取りまとめる人間が誰かしら存在します。

 

この運営者が「自分の私腹を肥やすために下層の人間から搾取して贅沢をしているド悪人」だったら、

話が非常に早いんですけどね。

自分だけ贅沢してないで払うモノ払えコノヤロー!で成敗して終わる話。

 

 

でも、残念ながら実情としてそうでなくて。

今回のエアースタジオさんの経営状態がどうだったのかは知りませんが、

ぶっちゃけ、いま演劇業界にいる運営者の大半が「下層の人間に十分な賃金払ってないけど、自分もまったく潤ってない。場合によっては俺が赤字被ってるぐらいだホゲェェー」だと思うんですよね。

 

甘い汁すすってる人間がいてそれの再分配で解決するならオールOKなんですが、そもそもの甘い汁がないという。

払いたくても払えるものがないんです。

それぐらい演劇公演ってそもそもの収益性がないんですよね、残念ながら。

 

 

 

演劇公演の収益性が低いのは今に始まったことではなく。

 

これについては各団体が様々な試行錯誤を重ね続けています。

物販を拡充したり、集客力のあるアイドルを起用したり、映像配信したり、特典付けたり、うんたらかんたら。

でも残念ながら根本的な解決ができている団体ってほとんどいないんじゃないでしょうか。

 

「劇場というキャパシティ限界のある場所で、稽古に一定期間を費やした役者が生でパフォーマンスを披露する」という仕組みである以上、演劇は最初から収益化に限界を背負ったビジネスモデルであると言えます。

たぶん収益化について課題がなくなることは今後もないでしょう。

つまり、今まではもちろん、これからにおいても、劇団は貧乏なままであると言えます。

 

 

今回の判決が一般化されたとき、生き残れる劇団なんてほとんどないんですよね。

真っ当な判決なのに、一般化されると片っ端から劇団が滅びるというとんでもないジレンマ。

 

 

 

演劇はお客様に対してパフォーマンスを披露する仕事としての一面を持ちながら、

同時に企画して場所さえ借りれば誰でもできる自由表現の場としての一面も持っています。

良くも悪くも誰でも無資格で参入できちゃう世界なんですよね。

プロアマ玉石混合で確かな境目も存在しません。

 

 

この状況で「劇団員も労働者」とみなされ支払い命令が出た今回の判決。

 

 

やりがい搾取で利用されてる人が減るのは喜ばしいことだけど、

逆にこれで運営が困難になっていく劇団が出てくることも考えられます。

そもそも玉石混合の中で、玉よりも石からのほうが「金くれ!」の声が大きそうな気がして(笑)

 

 

果たして業界として吉と出るのか凶と出るのか。

記事のタイトルだけが都合の良い解釈で独り歩きしないといいなぁ。

 

 

 

あ、運営をする側で今回の件について思うことを書いてる人もいますので、こちらもご参考にドーゾー。

→もじゃもじゃ頭のブログ『エアスタジオの判決について』

→香西姫乃|演劇デザイナー『「劇団員も労働者」?当たり前だけど当たり前じゃなかった、けどどうにもならないジレンマ?』

 

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