【演劇】「ホリエモンが演劇をアップデートする理由」を読んで

これは昨日の朝、ITmediaに掲載された記事。

(※画像はyahooニュースより)

 

ホリエモン

→元記事「僕の足を引っ張らない社会を作るーーホリエモンが演劇をアップデートする理由」

 

「僕の足を引っ張らない社会を作る」なんて挑発的なタイトルが付けられているけど、これはたぶん記事の編集者が読者の目に留まるように勝手に発言の一部を切り取ったもの。

タイトルだけ見て「なんて傲慢なやつだ!」なんて思いながら記事を読むと内容を正しく読み取れなくなるので色眼鏡をかけずに読んだほうがよいです。記事内容の根本的な趣旨はそこじゃないので。

 

記事は、ホリエモンが学生向けに「AI時代の働き方と生き方」というテーマで講演したものを文章に起こしたもの。AI時代に突入したこの時代でどんな生き方ができるのか、という話をするために自身の演劇への考え方を例に挙げている。

 

演劇人として感じるツッコミどころはけっこうあったけど、まぁそれはおいておいて。

 

記事を読んで、「ほぅ」と思ったのは、演劇が定年後のサラリーマンの居場所になりうるかもしれないという部分。

 

引用:

演劇は年を取ってもできます。デジタルカンペシステムや、昔の演劇を再演するための著作者印税システムをネットで共有することができれば、演劇を取り巻く環境はよくなると思います。ほとんどの役者さんは食べていけていません。でも彼らはきついチケットノルマを課せられたとしても、千秋楽を迎えたときの高揚感や一体感が忘れられなくて続けているのです。だから食べていけないようなプロの役者さんが、素人の役者さんに指導する派遣システムを作るなどすれば、演劇のエコシステムはうまく回るのではないかと思っています。

演劇には中毒性があります。だから定年後のサラリーマンの人生を豊かにする装置としては絶好だと思います。スポーツも同じですね。僕がJリーグやBリーグのアドバイザーをやっている理由もここにあります。サッカーやバスケットボールのサポーターには、「愛好者じゃないとサポーターになってはダメ」という雰囲気はありませんか? 「初心者は来るな」みたいな。でも僕は、それは間違いだと思っています。

JリーグやBリーグの経営で一番大切なのは、「年に1~2回しか見に来ない人を、いかにまた来させるか」なのです。その層の人たちが来なければ、経営は成り立たないからです。僕はスタジアムを「結界」と呼んでいますが、普段足を運ばない人にとっては、スタジアムには「見えない壁」があるのです。この「結界」を越えさせるために、Jリーグの鹿島アントラーズは、スタジアム内にクリニックやスポーツジム、マッサージサロンを作りました。地域住民が普段から足を運ぶ習慣を作ろうとしているのです。このようにスポーツも、定年後のサラリーマンにとっての生きがいになると思っています。

 

話はちょっと変わって、「観劇人口をどうやったら増やせるだろう?」という問題は、演劇業界に携わっている人は一度は考えたことがあると思う。

どんなに演劇で素晴らしい作品を生み出そうと、そもそも「劇場に足を運んでくれる可能性がある人」の母数がいないとマネタイズなんて無理なのだ。つまり演劇というジャンルを発展させたいのであれば、演劇というジャンルの市民権の向上は必要不可欠なわけで。

 

今回のように、定年後のサラリーマンを演じる側に流し込むという発想はなかったなぁ。

 

もし実現できるのであれば、演劇はより身近なものになって、その市民権向上にもつながるだろうね。発想と着眼点は面白いものだと思うので、是非とも形になってくれるといいなぁと思う。

 

まぁ、ここでぱっと考えただけでも課題は多そうなので、ちょっと書き並べてみる。

 

  1. 定年後のサラリーマンが舞台に立とうと考える動機作り
  2. シニア層が役者デビューできるコミュニティの用意
  3. 集客とマネタイズ
  4. 演劇作品の平均クオリティ低下の懸念

 

細かいの書いたらキリがなさそうなので4つだけに留めてみたけど、もし本当に「定年後サラリーマンに演劇をさせようプロジェクト」的なものが動くとしたら、これらが間違いなく大きな障壁になるだろうなと。

とりあえずひとつずつ見てみましょーか。

 

1.定年後のサラリーマンが舞台に立とうと考える動機作り

自分が定年を迎えたサラリーマンだとして。「さぁ、最後の勤務を終えたぞ。明日からどうしようかな?」ってときに、いったいどういった選択肢を考えるものか。「何も課せられないスローライフに移行する」「定年退職後も新たな仕事に就く」「スポーツや習い事のコミュニティに参加する」などが割合多そうだけど、「退職した!よし舞台に立とう」って考える人はそうそういないんじゃないかと(苦笑)

 

シニア層が演劇を始める動機をどうやって与えるのかがまず最初の課題。

 

若者だったら芸能人になりたい的なメイキングドリームが動機で始めるケースも多いと思うけど、シニア層はそれは薄そう。あと可能性がありそうなのは知り合いに誘われて系かー。仲の良い知人が先に演劇をやっていないとこのパターンも発生しなそうなので数は期待できなそう。

 

2.シニア層が役者デビューできるコミュニティの用意

ノウハウも何もない状態で自分で旗揚げってのは流石にありえないので、やはりどこか既存の劇団(サークル)に入ることになるはず。ただし経験ゼロのシニア層を受け入れてくれる劇団は限られていて、受け入れられる数も制限があるだろう。

 

シニア層の役者デビューは少数なら受け皿あるけど、多数は無理ってのが現状。

 

これを解決するためには、シニア層の役者デビューを支援する何らかの新しいコミュニティが発足しなきゃいけない。それがシニア層専門の芸能事務所なのか、シニア層専門の劇団(サークル)なのか、それ以外の全く新しい支援サービス的なものなのかはわからない。

 

でもこれらが発足して運営を続けていくためにはマネタイズの問題があって。それが次の3つ目の項目。

 

3.集客とマネタイズ

定年後に人生を豊かにする装置としてスポーツが挙げられていたけど、スポーツをすることと演劇をすることには決定的に大きな違いがあって。それは演劇はお客さんに向けて行うものであり、お客さんの存在が大前提であるということ。

 

シニアから演技を学んだメンバーで公演を打った場合、まず間違いなく「学芸会」のクオリティを脱せない作品ばかりが生み出される。当然ながらクオリティが低い作品に対して足を運んでくれるお客さんはいない。最初は知り合いが見に来てくれて客席を埋められるかもしれないが、クオリティが低い公演を繰り返せばそれもいずれは離れていってしまうだろう。

 

お客さんが確保できなければ、もちろん収入が確保できない。ただでさえ役者ノルマ頼みで運営が成立している小劇団が多い現状。見てくれるお客も少ない、金銭的負担も大きい、となってしまっては続けていくことはできない。

 

で、さっきの2の問題になるんだけど、この現状がある限りシニア層役者デビューを支援するコミュニティは新しく発足しようがない。マネタイズ困難で大赤字になるのがわかりきってる場所に手を出すのは、ボランティア以外ではまずできない。もし新しいコミュニティを発足させるのであれば、これまでにない新しいマネタイズ方法を生み出すことが必須になる。

 

4.演劇作品の平均クオリティ低下の懸念

前述したけど、シニアからデビューする役者が板を踏む機会が増えれば、残念ながらクオリティの低い作品が量産されやすくなるのはまず間違いない。ただでさえアタリハズレの差が激しい演劇作品の中で、いわゆるハズレ作品の割合が増えるってことになる。

 

観劇に限らず、どんなエンターテイメントにおいても「体験してみてつまらなかったもの」は次も足を運ぼうと思わない。観劇が習慣づいているお客さんであれば、つまらない作品を見せられても「この作品つまらない=この劇団つまらない」で、今後その劇団の観劇を止めて次からは他の劇団を観に行くだけで済むかもしれないが、ライトなお客さんの場合はその作品がつまらなければ「この作品つまらない=演劇つまらない」であり、もう次に観劇機会を作ろうとは思わないだろう。

 

個人的には「観劇に行って面白い体験をした!」っていう成功体験を常に生み出し続けることが演劇業界の底上げにおいて一番重要だと思っている。人間はメリットがある場所に集まるのが当たり前。だったら「面白い体験ができるというメリット」を常に保証するのが、長期的かつ業界全体で見たときの一番の推進剤。

 

シニア層の役者デビューの推進はこれの逆行になる見込みが高い。もし「演劇でつまらない思いをした体験」がお客さんの中で増えれば、それは業界の衰退にしかならないでしょ。どんなに作品作りに真摯に一生懸命取り組んでいたとしても、それが結果クオリティの低い作品であれば業界にとってマイナスにしかなりえない。

 


 

以上、ざーっと課題を書いてみた。

 

ざっくり表面的な部分しかさらってないので異論もあるだろうけど、おおむね間違ってはいないと思う。「演劇を定年後のサラリーマンの居場所にする」ってプロジェクトをやるとすれば、けっこう課題山積みで、しかもそのどれもが現時点では解決までのハードル高そうな。

 

まぁ、でも時代の流れとともにテクノロジーもどんどん発達している時代。

 

いつの間にかコードのない電話で離れてる人と通話ができるようになったし、いつの間にか自分が撮ったキレイな写真を地球の裏側にいる知らない人に「いいね」って褒めてもらえるようになった。空中を飛ぶ電波から音楽や映画が買えるようになったし、見ず知らずの人にアピールして事業資金を調達することも可能になった。

 

この先、いきなり予想もしないことが実現可能になったり、これまでの常識があっという間に意味を成さなくなるなんてことも多くあると思う。7歳のYouTuberが24億円稼ぐ時代だもの。世の中の変化には常にアンテナ立てていきたいね。

したらな!

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